墨田区の長屋を売るには?自分の住戸だけ売れる条件と切り離しの判断

この記事の要点
- 長屋の1戸は、建物が区分建物として登記され土地を単独で持っていれば、隣の住戸の同意がなくても売ることができる
- 長屋全体が1棟の共有で登記されている場合、単独で売れるのは持分だけで、全体を売るには共有者全員の同意が必要になる
- 東京都建築安全条例第5条により、長屋の各戸の出入口は原則として道路に面する必要があり、路地奥の住戸は同じ形で建て替えられないことがある
- 空き家の3,000万円特別控除は、区分所有の登記がされている建物には使えないため、売る前に登記の形を確認する
こんな方に読んでほしい記事です
- 墨田区で、壁を隣家と共有する長屋(連棟住宅)の1戸を相続した、または持っている
- 「自分の住戸だけでは売れない」「切り離さないと無理」と言われて困っている
- 隣の住戸の持ち主と話をする前に、何を確かめればいいか知りたい
長屋の1戸は、隣の住戸の同意がなくても、そのままの状態で売ることができます。ただし住宅ローンが使いにくく、建て替えも自分の住戸だけでは進めにくいため、一般の買主を待つ売り方では時間がかかります。売れるかどうかを分けるのは「長屋かどうか」ではなく、土地と建物の権利がどうなっているか、敷地が道路にどう接しているかの2点です。
この記事では、墨田区に長屋が多く残っている背景を踏まえ、売る前に確かめる書類、切り離しが難しい理由、売り先ごとの違いを順に整理します。路地の奥の家や再建築不可の家全般については、墨田区の再建築不可物件のコラムで詳しく書いています。

墨田区に長屋が多く残っている理由
墨田区の北部にある京島地区は、震災後や戦時中の住宅需要の中で長屋の街として形づくられ、東京大空襲の大きな被害を免れたと、墨田区のまちづくりの資料でも紹介されています。細い路地と木造の長屋が今も残っているのはそのためで、区の北部には、2戸から数戸がつながった木造の連棟住宅がほかにも見られます。
こうした地域の多くは、木造住宅が密集し、道幅が4mに満たない路地も多い地区です。墨田区は京島周辺地区(京島二・三丁目と京島一丁目の一部)と鐘ヶ淵周辺地区(墨田二〜五丁目などの一部)を不燃化特区(燃えにくいまちへの建て替えを集中的に進める地区)とし、古い建物の建て替えや取り壊しに助成を出しています。
もともと貸家として建てられた長屋は、地主が土地を持ち、建物だけを借りたり買ったりした経緯をもつことが少なくありません。そのため墨田区の長屋では、土地が借地だったり、何戸かの土地がまとめて1筆(登記上の1区画)のままだったりと、権利関係が複雑なことがあります。売却の相談で最初に確かめるのは、この点です。
売る前に確かめたい「権利」と「道路」
長屋とは、2戸以上の住戸が壁を共有して1棟になり、各戸が直接外に出入りできる建物のことです。マンションのような共用の廊下や階段がない点で、共同住宅と区別されます。名前がテラスハウスでも連棟住宅でも、売れるかどうかは呼び方ではなく、次の2つで決まります。
建物の登記:区分建物か、1棟のままか
長屋の建物の登記には、大きく分けて2つの形があります。1つは、住戸ごとに区分建物(マンションの1室と同じように、建物の一部を独立して持つ形)として登記されているものです。この場合は、自分の住戸を単独で売ることができます。
もう1つは、長屋全体が1棟の建物として登記され、複数の人の共有になっているものです。この場合、売れるのは「1棟の建物の共有持分」で、建物全体を売るには共有者全員の同意が必要です。古い長屋では建物が未登記のこともあり、その場合は売る前に表題登記(建物の所在や構造を初めて登記すること)から始める必要があります。
土地:単独所有・共有・借地のどれか
土地も、住戸ごとに分筆されて単独で持っている場合、何戸かで1筆を共有している場合、地主から借りている借地の場合に分かれます。土地が共有なら持分だけを売ることになり、借地なら地主の承諾が必要になります。借地の売り方は借地権付き建物の売却のコラムで詳しく書いています。
権利の形と、売るときの条件
| 単独で持っている | 共有している | 借地 | |
|---|---|---|---|
| 建物 | 住戸ごとに売れる | 持分のみ・全体は全員の同意 | ― |
| 土地 | そのまま売れる | 持分のみ・全体は全員の同意 | 地主の承諾が必要 |
| 主な確認書類 | 登記事項証明書 | 登記・共有者の連絡先 | 借地契約書・地代の記録 |
※一般的な整理です。実際の権利は法務局の登記と公図、契約書で一軒ごとに確認が必要です。
道路:各戸の出入口が道路に面しているか
長屋の建て替えでは、建築基準法の接道義務(敷地が建築基準法上の道路に2m以上接していなければならないルール)に加えて、東京都建築安全条例の長屋の規定がかかります。同条例第5条では、長屋の各戸の主要な出入口は道路に面して設けるのが原則で、道路に面しない場合は、規模に応じて幅2〜3m以上の通路で道路に通じていることなどが求められます。
この規定は2019年4月1日から強化されています。昔の長屋の奥の住戸が、細い通路だけで道路につながっている場合、今の基準では同じ形で建て替えられないことがあります。前面の路地が建築基準法上の道路かどうかは、墨田区役所の窓口で道路の種別を確認できます。
Q. 隣の住戸の同意がないと、自分の住戸は売れない?
住戸ごとに区分建物として登記され、土地も単独で持っているなら、隣の住戸の同意なしに売ることができます。売買は自分の持っている権利を譲るだけなので、隣家の承諾は法律上の条件ではありません。
ただし、買主から見ると、隣の住戸の持ち主がどんな人か、壁や屋根の補修をどう分担してきたかは気になる点です。過去に雨漏りの補修で揉めた、境界の塀について話がついていないといった事情は、売却の前に整理しておくと話が進みやすくなります。
建物が1棟の共有になっている場合は事情が変わります。自分の持分だけなら単独で売れますが、買主は持分を買っても建物を自由に使えないため、買うのは持分を扱う買取業者などに限られます。共有の売り方は共有持分の売却のコラムにまとめています。
Q. 切り離して1軒の家にすれば高く売れる?
切り離しとは、長屋の自分の住戸部分だけを解体し、残る隣の住戸を独立した建物として補修する工事のことです。更地にして新しく建てられれば、普通の土地として売れる可能性が出てきます。ただ、実際には3つの壁があります。
1つ目は、切り離した後に建て替えられるかです。自分の敷地が単独で接道義務を満たしていなければ、解体しても新しい家は建てられません。路地の奥の住戸では、ここで止まることが多くなります。
2つ目は、隣の住戸の同意です。共有している壁(界壁)は、民法230条により、隣り合う所有者の共有とは推定されない扱いになっています。とはいえ、自分の住戸を壊せば隣の住戸の壁がむき出しになり、構造の補強や防水の工事が必要です。隣家の建物を傷めれば損害賠償を求められるおそれもあるため、工事の内容と費用の負担について、事前に書面で合意しておくのが実務上の前提になります。
3つ目は、費用です。切り離しは普通の解体より手間がかかり、隣の住戸の外壁の補修まで含めると、解体費に近いかそれ以上の補修費がかかることもあります。費用は建物の構造や隣家の状態で大きく変わるため、複数の業者から見積もりを取らないと判断できません。
自分の敷地だけで、道路に2m以上接している?
なお、切り離して更地にすると、土地の固定資産税の住宅用地の特例が外れ、税額が上がります。不燃化特区の京島周辺地区・鐘ヶ淵周辺地区では、古い建物の除却に助成が出る場合がありますが、助成の対象や金額、申請の時期には条件があるため、工事の契約の前に墨田区の担当窓口に確認してください。
Q. 長屋の1戸は、誰に売れる?
長屋の1戸を買う相手は、大きく4つに分かれます。誰が買うかで、価格と、売れるまでの期間が大きく変わります。
- 01隣の住戸の持ち主買えば敷地と建物が広がり、切り離しや建て替えの選択肢も増える。一番条件がよくなりやすい相手
- 02現金で買う個人・投資家リフォームして住む、貸す。ローンが使いにくいため、検討する人は限られる
- 03長屋を扱う買取業者現状のまま、家財が残ったままでも相談しやすい。価格は低めになりやすい
- 04長屋全体をまとめて買う人全戸の持ち主がそろって売るなら、普通の土地として評価されやすい
隣の住戸の持ち主は、長屋ならではの有力な買い手です。隣家にとっては、建物の補修を自分の判断で進めやすくなり、両方の敷地を合わせれば建て替えの条件を満たせることもあります。いきなり価格を伝えるより、売るつもりであることと、検討してもらえるかを先に聞く方が角が立ちません。
長屋全体をまとめて売る方法は、各戸の持ち主が全員そろって売る場合に限られますが、土地としての評価が上がりやすい方法です。持ち主が高齢で、相続をきっかけに長屋の何戸かが同時に空き家になっているような場面では、選択肢になることがあります。
一般の買主に仲介で売る場合は、住宅ローンが使いにくい点が壁になります。金融機関は担保として建て替えのしやすさを見るため、長屋の1戸は評価が低くなりやすく、現金で買える人に買主が絞られます。その分、売れるまでの期間は長くなりがちです。
Q. 価格は、どのくらいになる?
長屋の1戸の価格について、国や区が示した基準はありません。業界では「同じ地域の普通の戸建てより2〜3割程度安い」といった目安が言われることがありますが、これは業者の経験に基づく目安で、物件ごとの差がとても大きい数字です。
価格を左右するのは、主に次の点です。自分の敷地が単独で道路に接しているか、土地を単独で持っているか、建物の傷み、そして隣の住戸の状態です。隣の住戸が空き家で傷んでいる場合、雨漏りやシロアリが自分の住戸に及ぶおそれがあるため、買主は慎重になります。
周辺の取引価格は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で調べられます。墨田区内の土地や中古戸建ての実際の取引価格と、前面道路の幅が載っているため、近くの普通の戸建てがいくらで取引されているかを把握しておくと、査定額が妥当かを判断しやすくなります。
仲介で売る場合、物件価格が800万円以下なら、2024年7月から仲介手数料の上限が税込33万円まで認められる特例があります。長屋の1戸はこの価格帯で取引されることもあるため、媒介契約の前に手数料の額を確認してください。
Q. 相続した長屋を売るとき、先にやることは?
親が亡くなって長屋の1戸を相続した場合、売買の契約や引き渡しの前に、相続登記(亡くなった人から相続人へ名義を変える登記)を済ませる必要があります。相続登記は2024年4月から義務になっており、それより前の相続でまだ登記していないものは、2027年3月31日までに申請する必要があります。
古い長屋では、祖父母の名義のまま何代も相続登記がされていないこともあります。その場合は相続人が多くなり、話し合いに時間がかかるため、早めに戸籍を集めて相続人を確定させておくことが大切です。
親が一人で住んでいた家なら、空き家の3,000万円特別控除が使える可能性があります。ただし、区分所有の登記がされている建物は対象外とされています。長屋が区分建物として登記されているかどうかで使えるかが変わるため、売る前に登記を確認し、税理士に相談してください。
長屋の1戸は、権利の確認からご相談いただけます
MAIVERSEは中央区・墨田区・江戸川区・台東区・江東区の城東エリアに特化した買取会社です。事務所のある東日本橋からは、両国橋を渡ってすぐ墨田区に入ります。宅地建物取引士が直接ご相談に対応し、登記や道路の確認から買取まで一貫して担当します。相続した空き家の売却では、遺産分割協議から相続登記・売却完了までの手続き費用を当社が全額負担しており、弁護士・司法書士・税理士とも連携しています。
墨田区の長屋を売る前に、手元でそろえたい書類
長屋の1戸を売るかどうかを決める前に、次の書類をそろえておくと、どの売り方ができるかがはっきりします。どれも法務局や区役所で取れるもので、費用は数百円から数千円程度です。
売る前にそろえたい書類
- 建物の登記事項証明書区分建物か、1棟の共有か、未登記かを確かめる
- 土地の登記事項証明書と公図単独所有か、共有か、借地かを確かめる
- 固定資産税の課税明細書名義と土地・建物の評価額を確かめる
- 道路の種別の確認区役所で前面の路地が道路かどうかを聞く
- 借地なら契約書と地代の記録地主の名前・契約期間・承諾の条件を確かめる
※登記事項証明書と公図は、法務局の窓口のほか、オンラインでも請求できます。
書類がそろったら、隣の住戸の持ち主の意向、仲介での見込み、買取の条件を同じ前提で並べて比べてください。隣家に声をかけるかどうか迷う場合も、断られて失うものはほとんどありません。
京島・向島など区の北部の地域ごとの相談は押上・向島・京島エリアのページでも案内しています。権利が複雑で何から手をつければいいか分からない場合は、訳アリ物件の無料相談会でご相談いただけます。
参考資料(2026年10月確認)
よくある質問
- Q長屋の隣の住戸が空き家で傷んでいます。自分の住戸を売るのに影響はありますか?
- A隣の住戸の雨漏りやシロアリが自分の住戸に及ぶおそれがあるため、買主が慎重になり価格に影響することがあります。分かっている傷みや、隣の持ち主と連絡が取れるかどうかは、査定のときに伝えておくと話が進めやすくなります。
- Q長屋の建物が未登記でした。このままでも売れますか?
- A買主に所有権を移すには、建物の表題登記と所有権保存登記を先に済ませる必要があります。古い長屋では図面がないことも多いため、土地家屋調査士に現地を測ってもらう期間と費用を見込んでおいてください。
- Q長屋の自分の住戸だけを解体するのに、隣の住戸の同意は法律上必要ですか?
- A法律上、同意が切り離しの条件として定められているわけではありませんが、隣家の壁がむき出しになり補強や防水の工事が必要になります。隣家の建物を傷めれば損害賠償を求められるおそれがあるため、工事の内容と費用の負担を書面で合意してから進めるのが実務上の前提です。
- Q長屋の1戸を賃貸に出していても売れますか?
- A入居者がいるまま、収益物件として投資家や買取業者に売ることができます。賃貸借契約の内容と家賃の入金記録をそろえておくと、価格の根拠を説明しやすくなります。
- Q長屋の隣の住戸の持ち主が誰か分からない場合、どう調べればいいですか?
- A隣の住戸の建物や土地の登記事項証明書を法務局で取ると、登記上の所有者の氏名と住所が分かります。登記が古く住所が変わっている場合もあるため、連絡が取れないときは不動産会社や司法書士に相談すると調べ方の見通しが立ちます。


