再建築不可の家は相続放棄すべき?判断基準と売却・国庫帰属の比べ方

この記事の要点
- 相続放棄は家だけを外す手続きではなく、預貯金や他の不動産も含めてすべての相続権を手放す手続きで、受理後は撤回できない
- 放棄できる期間は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月で、判断できないときは家庭裁判所に期間の伸長を申し立てられる
- 相続土地国庫帰属制度は建物がある土地は申請できず、再建築不可の家は取り壊してから申請する必要がある。審査手数料は一筆1万4,000円、負担金は基本20万円
- 放棄しても、放棄の時に家を現に占有していた場合は、2023年4月施行の民法940条により引き渡すまで保存義務が残る
こんな方に読んでほしい記事です
- 相続した家が再建築不可と分かり、相続放棄をして手放すべきか迷っている
- 放棄したあとに管理の責任が残るのか、他の財産まで失うのかを知りたい
- 放棄・売却・国に引き取ってもらう制度・そのまま持つ、の4つを比べて決めたい
再建築不可の家は、相続放棄で手放せる場合があります。ただし相続放棄は「この家だけ」を外す手続きではなく、預貯金も他の不動産も含めてすべての相続権を手放す手続きで、受理されると撤回できません。家を手放したいだけなら、売却や国の制度という別の道もあるため、放棄の前に並べて比べておく価値があります。
この記事では、民法の期限とルール、相続土地国庫帰属制度(相続した土地を国に引き取ってもらう制度)の要件、売却して相続する場合の流れを順に整理します。どれが合うかは、借金の有無・他の財産・家の状態で変わるため、放棄も売却も断定はしません。最終的な判断は、弁護士や司法書士に事情を伝えて確認してください。

相続放棄をすると、家だけでなく預貯金も借金も手放すことになる
相続放棄は、家庭裁判所に申述(もうしのべ)をして、最初から相続人ではなかったことにする手続きです。プラスの財産もマイナスの財産も、すべて引き継がなくなります。「再建築不可の家は要らないが、親の預貯金は受け取りたい」という選び方はできません。
放棄した人は最初から相続人でなかったことになるため、相続する権利は次の順位の親族に移ります。たとえば子どもが全員放棄すれば、亡くなった方の親へ、親も放棄すれば兄弟姉妹へ、という順です。法律上、次の順位の人へ連絡する義務があるわけではありませんが、突然の通知で驚かれることがあるため、親族に事前に伝えておくと関係を保ちやすくなります。
また、いったん受理された放棄は、あとから「やはり受け取りたい」と撤回できません。借金がないと分かった場合でも同じです。放棄は、家の負担を避けたいという気持ちだけで決めるものではなく、他の財産と引き換えになる手続きだと考えておく必要があります。
3か月の期限と、放棄できなくなる行為(単純承認)
相続放棄ができる期間(熟慮期間)は、民法915条により、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です。裁判所の案内でも、この3か月の間に家庭裁判所へ申述するとされています。申立先は、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所で、収入印紙800円(相続人1人につき)と郵便切手が必要です。
財産の調査が3か月で終わらない場合は、期間の伸長(のばすこと)を家庭裁判所に申し立てられます。この申立ても3か月の期間内に行う必要があります。再建築不可の家に気を取られて調査が後回しになると、預貯金や借金の全体像が見えないまま期限が来てしまいます。
3か月の期限の動き方
- 相続の開始を知るこの日から3か月が始まる
- 財産と借金を調べる通帳・郵便物・固定資産税の通知など
- 判断できなければ伸長3か月以内に家庭裁判所へ申立て
- 放棄か承認かを決める放棄は家庭裁判所へ申述
気をつけたいのは、放棄を考えている間にやってしまうと、放棄できなくなる行為があることです。民法921条は、相続財産の全部または一部を処分したときや、3か月が過ぎたときなどに、単純承認(すべてを引き継ぐこと)をしたものとみなすと定めています。
放棄を検討している間に控えたいこと
家や土地の売却・名義変更、建物の取り壊し、預貯金を引き出して使うこと、価値のある家財の処分や譲渡は、処分にあたると判断されるおそれがあります。最低限の雨漏りの応急処置などは「保存行為」として認められる場合がありますが、どこまでが保存行為かは判断が分かれるため、手を付ける前に弁護士へ確認してください。
ここに、再建築不可の家ならではの落とし穴があります。放棄を考えて様子を見ている間に、傷みが進んだ家を片付けたり、解体の見積もりを取って契約したりすると、処分と見られる場合があります。逆に、家を売ると決めた時点で、その人は相続を承認する立場になります。「放棄してから売る」という順番は取れないため、売却を考えるなら、放棄は選ばないという前提で進めます。
相続人全員で家庭裁判所に申述する限定承認(相続した財産の範囲内でだけ借金を返す方法)という方法もあります。ただし手続きが重く、相続人が複数いる場合は全員で行う必要があるため、再建築不可の家一軒のために選ぶ場面は多くありません。
放棄したあとも、家の保存義務が残ることがある
「放棄すれば家のことは一切関係なくなる」と考えていると、思わぬ負担が残ることがあります。2023年4月1日に施行された民法の改正で、民法940条は、相続放棄をした人が、放棄の時にその家を現に占有(実際に使ったり、管理したりしている状態)していたときは、次の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで、自分の財産と同じ注意をもって保存しなければならないと定めています。改正前は「管理」の義務と呼ばれていました。
この改正で、実家から離れて暮らしていて、家に関わっていなかった人は、保存義務を負わない方向に整理されました。一方で、亡くなった方と同居していた、鍵を預かって日常的に管理していた、といった場合は、占有にあたる可能性があります。鍵を預かっているだけで占有になるかなど、境目は事情によって変わるため、一軒ごとに弁護士に確認が必要です。
全員が放棄して、誰も相続する人がいなくなった場合は、利害関係のある人などが家庭裁判所に申し立てて、相続財産清算人を選んでもらう手続きになります。清算人が選ばれるまでの間、家は放置されやすく、老朽化した再建築不可の家は、倒壊や火災で近隣に被害が出るおそれもあります。放棄をしても、占有している間の保存義務は続く点を、頭に入れておいてください。
家を放置するリスク全般は空き家・訳アリ物件を放置するリスクのページで案内しています。
相続土地国庫帰属制度は、建物が残る再建築不可の家には使えない
相続土地国庫帰属制度は、2023年4月27日に始まった、相続や遺贈で取得した土地を国に引き取ってもらう制度です。法務省の案内では、建物がある土地は申請できない土地とされています。担保権(抵当権など)が付いている土地、境界がはっきりしない土地、土壌汚染のある土地なども、申請の段階で却下されます。
再建築不可の家は、建物が建っている限りこの制度を使えません。法務省のQ&Aでも、建物は取り壊してから申請するのが原則とされています。つまり、解体費用を先に負担してから申請し、承認されて初めて、国に引き取ってもらえます。
国庫帰属と放棄の公的な費用
※放棄は相続人1人あたり・郵便切手別。国庫帰属は土地一筆あたりで、解体費用は別です。
費用の内訳は、審査手数料が土地一筆あたり1万4,000円で、申請時に収入印紙で納めます。却下や不承認でも返還されません。承認されると、10年分の標準的な管理費用を考慮して算定された負担金を納めます。基本は20万円ですが、市街化区域などの宅地は面積に応じて20万円以上になります。
負担金は、通知が届いた日の翌日から30日以内に納付しなければ、承認が失効します。審査にかかる期間は、標準処理期間が8か月とされていますが、事案によってはそれより長くなります。審査中に買主が見つかって売ることになった場合は、承認申請を取り下げることになり、支払った審査手数料は戻りません。
もうひとつ、仕組みの上で見落としやすい点があります。この制度を使えるのは、相続によって土地を取得した人です。相続放棄をした人は最初から相続人でなかったことになるため、放棄と国庫帰属を同じ人が組み合わせて使うことはできません。放棄か、相続して国に引き取ってもらうか、どちらかを選ぶ形になります。
再建築不可の家では、解体して更地にすると、その土地に家を建て直せない状態が残ります。国庫帰属は、解体費用を出してでも手放したい、時間に余裕がある、という場合に検討する制度だと言えます。
4つの選択肢を並べて比べる
ここまでの内容を、相続放棄・売却して相続・国庫帰属・そのまま保有の4つで整理します。金額は、裁判所や法務省の資料で確認できた手数料だけを載せています。売却価格や解体費は、物件ごとに差が大きいため、見積もりで確かめてください。
4つの選択肢の比較
| 選択肢 | 向く状況 | 費用・手間 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 相続放棄 | 借金が多く、財産全体がマイナス | 800円と切手、戸籍集め | 全財産を手放す。撤回不可 |
| 売却して相続 | 家を手放したいが他の財産は受け取りたい | 相続登記と売却の手続き | 買主探しに時間がかかる場合あり |
| 国庫帰属 | 解体でき、費用と時間に余裕がある | 解体費+1万4,000円+負担金 | 建物があると申請不可。審査約8か月 |
| そのまま保有 | 当面住む・貸す・活用する予定がある | 固定資産税・修繕・登記 | 相続登記は義務。次の世代へ持ち越し |
期間の面でも、放棄は3か月以内、国庫帰属は審査だけで標準8か月、売却は買主次第、保有は登記の期限(原則3年)が目安になります。放棄は期限が早く、決められるまでの猶予が短い分、他の3つを検討する余裕がなくなりがちです。期間伸長の申立てを使って、比べる時間を確保しておく方法もあります。
そのまま保有する場合でも、費用がゼロではありません。建物が建っている間は、固定資産税の住宅用地の特例(税額を軽くする仕組み)が使える場合がありますが、取り壊すとこの特例が外れて税負担が増えるおそれがあります。再建築不可の家では、解体のタイミングで税額が変わる点も確認が必要です。
こんな人はこちら
- 01財産全体がマイナスの人借金が家の価値を上回る場合は、放棄を弁護士と検討
- 02家だけ手放したい人他の財産を受け取る前提なら、売却して相続を検討
- 03解体と審査を待てる人更地にできて時間がある場合は、国庫帰属を検討
※目安です。借金の有無や家の状態で変わります。
再建築不可でも売れる道があり、相続人のままなら売却代金を受け取れる
再建築不可の家は、住宅ローンが使いにくいため、一般の買主が限られます。それでも、隣地の方、現金で買える個人、再建築不可を扱う買取業者といった売り先があります。売却の相場や仲介と買取の手取りの違いは再建築不可物件の売却のコラムにまとめています。
相続人のまま売る場合は、遺産分割協議(誰が何を引き継ぐかの話し合い)を済ませ、相続登記をしてから売却します。相続登記は2024年4月1日から義務になっていて、相続で不動産を取得したと知った日から3年以内に申請しなければなりません。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。2024年4月より前の相続で、まだ登記をしていない場合は、2027年3月31日までが期限です。
相続人が複数いて、誰が相続するかが決まらないと、売却にも進めません。話し合いの進め方は相続人が複数いる場合のページ、登記を放置したときのリスクは相続登記を放置するリスクのページで案内しています。
売却価格が800万円以下の空き家などの取引では、2024年7月1日から、仲介手数料の上限が通常より高く設定できる特例があります。売主から受け取れる上限は税込33万円までで、依頼者との事前の合意が必要です。媒介契約を結ぶ前に、手数料の説明を受けてください。
売却で売主側の税金が気になる場合は、再建築不可の空き家の3000万円控除のコラムで、国税庁の案内に沿って整理しています。すでに家を解体してしまった場合の考え方は解体済みの再建築不可の土地のコラムが参考になります。
相続した空き家の手続き費用は、当社が全額負担します
MAIVERSEは、相続空き家の売却で、遺産分割協議から相続登記・売却完了までの手続き費用を全額負担しています。宅地建物取引士が直接ご相談に対応し、弁護士・司法書士・税理士とも連携しているため、放棄を考えていた方も、売却の可否と手続きの全体を確かめてから判断できます。事務所は中央区東日本橋で、中央区・墨田区・江戸川区・台東区・江東区の城東エリアに特化しています。
放棄の期限が迫る前に、まず確かめたい3つのこと
放棄・売却・国庫帰属のどれを選ぶ場合でも、期限の起算日と、家に手を付けていないかを最初に確かめます。次の3つを手元で整理すると、弁護士や司法書士に相談するときも話が早く進みます。
- 相続の開始を知った日から3か月の期限と、期間伸長が必要かどうかを数えた
- 預貯金・借金・他の不動産など、財産全体のおおよそを調べ、家財や家に手を付けていない
- 家が本当に再建築不可かを役所で確認し、現に占有しているか(同居・鍵の管理など)を整理した
3つ目は、「再建築不可」と言われた家でも、セットバック(道路沿いの敷地を後退させること)や許可の手続きによって建て直せる場合があるため、一軒ごとに役所で確認する価値があるという意味です。建て直せるなら、売却先の幅も価格も変わります。
相続の手続きを前に、ご家族の状況から揉めやすい点を先に洗い出したい方は、相続トラブルのリスク診断をご利用ください。放棄か売却かを迷う段階での相談は、相続の無料相談会でお受けしています。
参考資料(2026年10月確認)
よくある質問
- Q兄弟のひとりが相続放棄をしたら、自分の3か月はいつから数えますか?
- A熟慮期間は、自己のために相続の開始があったことを知った時から数えます。先順位の相続人が放棄して、自分が相続人になったと知った日が起算点になるのが一般的です。いつ知ったかが争いになることもあるため、連絡を受けた日や書面を残しておいてください。
- Q放棄を考えている間、実家の家財や形見を持ち出してもよいですか?
- A価値のあるものを処分・譲渡・使用すると、相続を承認したとみなされるおそれがあります。写真など財産的な価値が低いものなら問題にならないことが多いものの、線引きは事情で変わります。迷う場合は、触る前に弁護士へ確認してください。
- Q放棄が受理されたあとで、借金がないと分かりました。取り消せますか?
- Aいったん受理された相続放棄は、撤回できません。借金の有無が分からないまま3か月が近づくときは、放棄の前に期間の伸長を家庭裁判所に申し立てて、調査の時間を確保する方法があります。
- Q放棄するつもりの家でも、相続登記は必要ですか?
- A相続登記の義務は、相続で不動産を取得した人に課されるものです。放棄が受理されれば、最初から相続人でなかった扱いになるため、その人に登記の義務はありません。ただし受理前や、売却・保有を選ぶ場合は義務の対象になるため、司法書士に確認してください。
- Q国庫帰属の申請中に、買いたいという人が現れたらどうなりますか?
- A売却するには、承認申請を取り下げる手続きが必要です。法務省のQ&Aでは、取り下げても申請時に納めた審査手数料は返還されないとされています。審査が長引く可能性もあるため、申請の前に売却の可能性も確かめておくと無駄が出にくくなります。


